✦ 皆息を飲む平和主義者 ページ10
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12月14日。Aがメイドとして働き始め早一週間が経過した。洗濯物の畳み方くらいは習得したので、今日も今日とて軍隊方の服を干していると、がさ、と林の向こうで葉の擦れる音が聞こえた。
今居るのは中庭なので、無論場内は塀で囲まれてるから侵入者ではないだろう。となると誰か猫でも飼っているのかな、とおもってAはタオルを持ったまま近寄った。
動きにくいスカートを揺らして音を頼りに探索すると、視界の隅に紫がかった何かが見える。振り向くと、そこには血だらけの男。Aはギョッとして駆け寄った。
「あのっ、大丈夫ですか!?」
「……っ、近寄らんといて、ください。……お前、人間やん、」
「わ、腕の出血が!」
男の声はあまりにも小さくてか弱く、幸か不幸か人間のAの耳には入らなかった。Aは一瞬迷ったが、大量出血で彼が命を落として目覚めが悪くなるよりは、と覚悟し、持っていたタオルを腕につよくつよく巻き付ける。そしてさらに圧迫すると、覗き込むように彼を見つめる。
「歩けない?」
「む……り」
「分かった」
まだ間に合う、今は幸いにも五体満足だし、片足は複雑骨折しているらしく腫れているけれど、他のメイドさんを呼べばなんとかなる。
「すみません! 助けて下さい!!!」
静まり返っていた。耳がいいから聞こえているはずなのに、Aが人間だからと幼稚な嫌がらせをしているようだ。Aは歯を軋ませて、全身全霊で叫ぶ。
「男に人が!! 倒れてて!!!」
一瞬で気配が増した。どうやら助けを求めているのはAではなくその男の人だということが分かったらしい。Aはあくまで間接的に声を出しているだけだと。その事を理解したらメイド達は速かった。
五、六人ほど声を頼りにA達を見つけ出し、きゃあ、と悲鳴をあげる。
「ショッピさん!? みんな! ショッピさんよ!!! 人を呼んで!!!」
「ショ?」
Aはこれまた変わった名前だと思った。獣人の名前は個性的だとよく聞くし、確かに清水の本名も清水・ルーラントとかいうハーフみたいな名前だったけど。まあ彼の場合もゾムさん同様偽名だろうなと粗方予想をつけていると、向こうからやってきた屈強な男たちに彼は運ばれて行った。
芝生が血で泥みたいな色になっている。Aは足元が血だらけなことに気が付かず、安心で腰が抜けた。
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にのやも(プロフ) - モモモさん» きゃあ! そんなこと言われたら沢山書きたくなっちゃいます!🥹 ご期待に添えるようなるべく余談回挟めるよう頑張ります!🙇🏻♀️" (4月5日 8時) (レス) id: 4e49335954 (このIDを非表示/違反報告)
モモモ(プロフ) - 展開が一つ一つ丁寧で面白くてもう全部読みきっちゃいました!3章以内で終わるのか...もっと書いてもいいんですよ🥹(わがまま) (4月4日 21時) (レス) id: 90bb9ca7b2 (このIDを非表示/違反報告)
にのやも(プロフ) - 梓月さん» コメント有難う御座います!🙇🏻♀️" 是非命狙われてる夢主ちゃんを守ってあげてください……!👊🏻✨ (4月1日 17時) (レス) id: 4e49335954 (このIDを非表示/違反報告)
梓月(プロフ) - ぐいぐい来られると困っちゃうのあまりにも可愛い…守護らねば (3月31日 21時) (レス) @page42 id: c21b6e797e (このIDを非表示/違反報告)
にのやも(プロフ) - 滅華狂さん» あの場面はとっても慎重に書いたので、そう言って貰えて作者冥利に尽きます!😭✨ これからも更新頑張ります!🙇🏻♀️" (3月27日 11時) (レス) id: 4e49335954 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:にのやも | 作成日時:2024年3月24日 17時